3月25日発売の『.hack//G.U. TRILOGY』は、ご存知.hackの最新シリーズRPGである「.hack G.U.」(PS2専用ソフト、全3巻)で描かれたストーリーを元にしつつ、全カットを完全新作で創りあげたオリジナル長編CGアニメです。
しかも今回はDVD版に加えて、ブルーレイディスク版も同時発売ということで PS3などでブルーレイ再生環境をお持ちの皆様には是非そちらでお楽しみいただきたいですね。
PS2で発売されたゲーム版にもムービーが収録されていましたが、今回はその完全新作映像化にあたり、ストーリーの刷新やHD画質への向上といったわかりやすい変更に加え、なかなか気づかれないCGアニメ表現の工夫が随所に行われているようです。(「.hack//G.U. TRILOGY」 はゲームではなく映像作品です。念のため )
舞台挨拶をされる(株)サイバーコネクトツーの代表の松山さんをはじめ
開発陣の皆様 |
折りしも先週末には、彼らのホームグラウンドである博多でも記念上映イベントが開催されたばかりですが、今回は.hackシリーズの開発を担当してきた(株)サイバーコネクトツーの代表であり、本作では監督として全編にこだわりを注ぎ込んでくれた松山洋さんのお話をうかがいました。
T:「本日は宜しくお願いします。今回は本作のCG表現における取り組みについて伺いたいと思います」
松山:「宜しくお願いします。話は.hack//立ち上げのときに遡ります。
サイバーコネクトツーは自社内でキャラクターデザインをやれますし、やっていたんですけど
やっぱり一発目のバンダイ初、本格的 RPG を打ち立てる為には脚本もそうですし
メインのキャラクターデザインやパッケージ等のイラストに、大きい力を持った
イラストレーターさんにお願いしたいというのがありまして。
社内のチーム内で考えて「誰だったらいいか?」「誰なら任せられるか?」
という話しをした結果、ぶっちぎりで貞本 義行さんになりました。
まぁ、私が大好きだっていうのもあるんですけど(笑)
お名前が挙がって、当時のバンダイビデオゲーム事業部長の鵜之澤さんに
「貞本さんがいいです」という話をしたところ「うん、わかった。」と。
「絶対に無いとは思うけど、行って話しをしてこい。」という事で、
ガイナックスに行って「貞本さん居ますか?」と(笑)
そして、お会いしてお話しをしまして・・ 正直、最初はお断りされたんですよ。
「僕はアニメーターです。ゲームの事は良く分からない。」と。
そのような事を言われて断られたので、まぁ・・ 帰るしか無かったんです。
その時、「こういう所がわからない。」って色々言われていたんですよ。
アニメーターにはアニメーターの流儀というのがあって、そしてゲームというのは
すごく不自由だと。実際、具体的に言われていたのは零戦の話ですね」
T:「零戦というと、あの戦闘機の?」
松山:「そうです。例えば、アニメの中で零戦を描く時っていうのは、真ん中にコックピットが
あって、その横に翼があるじゃないですか?これを横から見た視点から、少し傾いた時に
奥の翼が物理的に見えない角度なんだけど、見えてた方がカッコいい時には
アニメーターは描くんだ、と」
T:「なるほど。なんだかピカソのキュビズムの考え方なんかを思わせる話ですね」
松山:「ゲームのCGっていうのは、見えない物は絶対に見えないだろう?と。
結局、正確なデータとしてはそこにあるけれど、そういった所に芸術性が無いと。
キャラクターにしてもそうで、アニメだったら正面から見た時に一番栄える絵を
描くし、斜めから見たら、その角度で一番栄える絵を描くじゃないですか。
CG で三次元的に、どこからでも見える絵を作ったとしても、結局それは
どの角度から見れるというだけの話で、どの角度から見ても完璧な表現の物は
結局作り得ないと。
という様に、 CG の弱点的な事を結構言われたんですよ。
だから自分がデザインしたとしても、それがどこまで表現されるのかって部分が
わからない以上、そういった仕事は出来ないしやりたく無いというお話しでしたので
博多に帰って・・・ 一ヶ月くらい経ってから、「どういう物になるか分からない」と
言っていたので、サンプルのモデルを作ったんですよ。うちで。
PS2 で実際に動く綾波レイを作って、もう一度ガイナックスに行って
「どういう物になるか分からないと伺ったので、実際に作って来たから見てください!」って。
そうしたら「断ったハズなのに、何でまた来るの?」って言われたんですけども(笑)
とにかく見てくださいとお話しして、見てもらったんですよ。
見てもらったらこっちのもんでしたね。
あの方もクリエイターですから、こだわるんですよ!また!(笑)
コテンパンにやられましたね(笑)
「ほらね?」と。ここが駄目だ、あそこが駄目だ、ココがそもそも CG の限界だ、
弱点だと、結構な赤点をいっぱい入れられて。
T:「僕も以前立体物の監修を貞本さんにしていただいたとき、同じようにあちこちご指摘
いただいたことを思い出しました(笑) でもやはり貞本さんの指摘はどれも筋が
通っているので、こっちも出来る限り返してあげたくなるんですよね」
松山:「そうなんですよ。そのときは「ね?だから無理です。」ってまた断られて、博多に帰って
それから一ヶ月くらいの間に言われた所を全部直して、また持って行ったんですよ。
その内、段々とやり方がわかってきたので・・ 半年ぐらいですかね?
やり取りを繰り返していたら・・PS2で動くパーフェクトな綾波レイが完成したんですよ!
世の中には出せない物なんですけど(笑)
で、完成した時に貞本さんとしても、半年というやり取りの中でちょっと変わってきた
のが・・・ CG にも色々な可能性があるという事が、やり取りの中で分かって頂けたのと
博多のサイバーコネクトのスタッフというのは、これだけ情熱を持っているチームなんだと。
そういうことであれば、僕はアニメーターなのでずっとゲームにつきっきりという訳には
いかないけれども、僕が出したヒントとか、こういう事をして欲しいって言った事を実現して
くれるチームなんだ、と認めて頂けて、結果的に仕事として引き受けて頂けました」
T:「半年ですか・・・ 相当な苦労と時間をかけた上での成就だったんですね」
松山:「まあこれは最初の .hack の時のお話ですけどね。そこからは長いお付き合いをさせて
もらっています。」
T:「ともあれ、そうしたやり取りのなかに、.hackシリーズを通して鍛え上げてきた
CGアニメ表現の原点があったんですね〜。
大変参考になりました。ありがとうございました」
・・・というわけで、サイバーコネクトツーの松山さんのお話を伺いましたが、デザイン監修をされている貞本義行さんのご助言もありつつ、如何にCGを用いてアニメらしく見せるかという点での創意工夫はゲームの第一作から連綿と続いており、それらを更に推し進めた結果として本作の表現があるということのようですね。
では、「.hack//G.U.
TRILOGY」制作に取り入れられている「スーパーフェイシャル」そして「オーバーパース」と呼ばれる手法の具体的な例をみてみましょう。
通常のフェイスデータでは正面アングルでは適切な表現が得られても、こだわったアングルで動きを強調するといったアニメ・マンガ的ディフォルメは表現できません。そこで決められたカメラアングルで最適な表現を得るために、カットごとに元のCGデータを手付けで改造しているのです。
【スーパーフェイシャル技法】
アニメチックに大きな口をあけて叫ぶ.hack//G.U.
TRILOGYの「ハセヲ」くん
↓ |
実はフレーム化して正面に回りこんでみると・・・
↓ |
元になっているのはこんなデータだったりします
|
【オーバーパース技法】
謎のPKキャラ「トライエッジ」の右手がぐっと前面に伸びたカットも・・
↓ |
元データはこんなバランスになっています
|
どちらにしても、一つ一つのカットにおける最適な絵作りを前提として、その元になるデータを毎度毎度改変するという手の込んだ作業が行われているわけです。シリーズを通して研究されてきたこの表現技法のおかげで、今回の「.hack//G.U.
TRILOGY」 では単なるCGムービーを超えた一つの映像作品としてのクオリティが成立しているということなのでしょう。うーむ、勉強になります。
そんなわけで、今回は博多の元気な開発会社サイバーコネクトツーの松山さんをゲストに、発売直前の「.hack//G.U.TRILOGY」のCG技術に関してのお話をお届けしました。.hackファンはもちろんのこと、
CGや映像に興味のある方も、是非チェックしてみてくださいね。 それではまた2週間後にお会いしましょう!
バンダイナムコゲームス
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| posted by アキバBlog(秋葉原ブログ) geek at : 07:13| コラム